虫とりは運動にもなる。足場の多様性と体の発達

虫とりは運動にもなる。 外遊び・自然学習
草っぱら、でこぼこ砂利道。川。泥。運動になる。
2歳6か月〜2歳11か月の観察記録

虫取りは走り回る遊びだと思っていました。でも、2歳児の動きを見ていると、捕まえる直前ほど走っていませんでした。止まる。しゃがむ。足を置き直す。手を伸ばす。最後は力を入れすぎずにつかむ。虫を1匹捕まえるまでには、速さよりも細かな調整が何度も入っています。

以前の私は、虫取りの運動面を「よく歩く」「よく走る」「自然の凸凹道でバランスを取る」と考えていました。間違いではありませんが、それだけでは虫取りらしさを説明できません。

虫は、こちらの予定どおりには動きません。急に跳ぶ。方向を変える。葉の裏へ隠れる。近づけば逃げる。子どもはそのたびに、自分の動きを始め、止め、変えています

この記事で考えたいこと 虫取りの運動的な価値は、単に活動量が増えることだけではありません。動く相手と周囲の地形に合わせて、全身の動きを何度も組み替えるところにあります。

虫取りは「走る遊び」ではなく、動きを切り替える遊び

文部科学省の「幼児期運動指針」では、幼児期に経験する基本的な動きを、大きく次の3種類に整理しています。

動きの種類 虫取りで見られる動き 実際の場面
体のバランスを取る 立つ、しゃがむ、かがむ、姿勢を戻す 地面の虫をのぞき込み、しゃがんだまま手を伸ばす
体を移動する 歩く、走る、止まる、よける、方向を変える 蝶を追い、草を避け、飛んだ先へ回り込む
用具などを操作する 持つ、運ぶ、捕る、入れる 網を持ち替え、虫をつかみ、観察ケースへ移す

虫取りでは、この3種類が別々に出てくるのではありません。歩きながら虫を見失わないようにし、止まって姿勢を低くし、片手を伸ばす。複数の動きを短い時間の中で切り替える必要があります。

年齢についての注意 文部科学省の指針が対象としている「幼児」は3〜6歳です。この記事で扱う2歳児を、この基準で評価することはできません。ここでは発達の判定ではなく、親が子どもの動きを見るための整理として参照しています。

2歳6か月から2歳11か月までに、何が変わったか

うちの子、ちーくんは虫を怖がらず、早い時期から手を出す子でした。ただし、怖がらないことと、狙った虫を捕まえられることは別です。

2歳6か月ごろ

地面にいるカナブンを自分の手でつかみ、さっと持ってくることがありました。動きの遅い甲虫なら、見つける、近づく、つかむ、運ぶまでを一人でつなげられていました。

2歳10か月

成虫のショウリョウバッタを捕まえました。カナブンと違い、近づくと跳ねて逃げます。相手が動いたあとに、もう一度位置を捉え直す必要がありました。

2歳11か月

蝶を見ると、最初は勢いよく追いかけていました。そこで「ゆっくり、驚かさないように近づくんだよ。忍者になるんだよ」と伝えました。虫取りでは、速く動くことだけでなく、動きたいのを抑えて速度を落とすことも必要だと気づいた場面です。

同じころ

地面にいるシロテンハナムグリも、自分で手を出して捕まえます。甲虫をつかむ動作自体はかなり迷いがなくなりました。

ここで大事なのは、捕まえた虫の数ではありません。虫によって逃げ方も難しさも違うので、単純な成績表にはできません。それでも同じ子を見続けると、「とにかく追う」だけだった動きに、止まる、待つ、近づき方を変えるという選択が加わったことは見えてきます。

虫を1匹捕まえるまでに使う、5つの動き

虫取り中の姿を「走れた」「捕れた」だけで見ず、途中を細かく分けると、変化を見つけやすくなります。

1

動く虫を見続ける

自分が歩いたり走ったりしても、虫の位置を見失わないようにします。小さな虫では、草や地面の模様から対象を見分け続ける必要もあります。

見るポイント:虫が動いたあと、視線や顔がその方向へ戻るか。
2

近づく速さを変える

遠くにいる間は走っても、近くでは減速しなければ逃げられます。「追う」から「そっと近づく」への切り替えが必要です。

見るポイント:最後まで同じ速さで突っ込まず、手前で止まったり歩幅を小さくしたりするか。
3

しゃがむ・のぞく・手を伸ばす

地面の虫を捕るときは腰を落とし、上体を傾けたまま片手を伸ばします。用水溝の中を見るなら、縁で止まって下をのぞく必要があります。葉や枝の虫が絶妙に背の届かない高さにいれば、背伸びをして腕を伸ばします。

見るポイント:低い姿勢や背伸びした姿勢を保てるか。手を伸ばす方向に合わせて、足の位置も変えられるか。
4

足を置く場所を選び直す

岩場や石畳の階段、ぬかるみ、落ち葉、木の根がある場所では、同じ歩き方では進めません。やぶの中では葛のつるに足を取られることもあります。虫だけでなく足元も見ながら、足を上げる高さや置く位置を変えます。

見るポイント:登る、またぐ、踏ん張る、回り込む、いったん止まるといった選択が出るか。
5

手を出すタイミングと力を調整する

速すぎれば虫は逃げ、強すぎれば傷つけます。手を開く、狙った位置へ動かす、閉じる、つかんだあとに力を緩める。最後は手指の細かな操作です。

見るポイント:ただ上から叩かず、虫の位置に合わせて手の向きやつかみ方を変えられるか。

虫のいる場所が、その場で必要な動きを変える

虫取りでは、整った道だけを歩くわけではありません。岩のような場所を登ることもあれば、石畳の階段、ぬかるみ、落ち葉、木の根を越えて進むこともあります。やぶに入れば、根だけでなく葛のつるが足に引っかかります。

さらに、虫のいる位置も一定ではありません。用水溝の中なら縁からのぞき込み、葉や枝の上なら手を伸ばします。あと少しなのに、絶妙に背が届かないこともあります。

足場の違いと、虫の位置や動きが同時に次の動作を決める。ここが、虫取りで体の使い方が次々に変わる理由だと思います。

場所・足場 必要になる動き 子どもが調整すること
岩場・石畳の階段 登る、下りる、踏み込む 段差の高さに合わせて足を上げ、次に体重を移す
ぬかるみ・落ち葉 踏ん張る、歩幅を小さくする 滑りやすさや沈み方に合わせて、速さと足の置き方を変える
木の根・葛のつる またぐ、足を高く上げる、止まる 虫だけに視線を奪われず、引っかかるものを避ける
やぶ 草をかき分ける、体を小さくする 手で進路を作りながら、足元も確かめる
用水溝 止まる、のぞき込む、上体を戻す 縁との距離を保ったまま姿勢を傾ける(必ず大人の見守りのもとで)
背が届かない高さ 背伸びする、腕を伸ばす、位置を変える 届かなければ、立つ場所や見る角度を選び直す

しかも、目標の虫は止まって待ってくれません。右へ飛べば向きを変え、地面へ下りればしゃがみ、草の奥へ入れば別の位置へ回ります。足場に合わせるだけでなく、動く虫に合わせて、いま使っていた動作を途中で切り替えます。

虫取りらしい運動とは 長く歩くことや速く走ることだけではありません。足場と虫の位置に合わせて、「登る・またぐ・止まる・のぞく・背伸びする・回り込む・手を出す」を選び直すことです。

研究から言えることと、わが家の観察だけでは言えないこと

文部科学省は、幼児期の運動について、特定の動きだけを反復するよりも、自発的な遊びの中で多様な動きを経験することを重視しています。また、動きが増える「多様化」と、無駄な力みが減って目的に合う動きになる「洗練化」を区別しています。

自然環境での遊びを調べた研究でも、自然の遊び場を利用した5〜7歳児でバランスや協調性を含む運動能力の改善が報告されています。また、25人の就学前児を観察した研究では、森林の遊び場のほうが従来型の遊び場より身体活動が多く、追いかけ遊びやかくれんぼも多く見られました。

ただし、これらは虫取りだけを取り出して効果を検証した研究ではありません。わが家の記録も一人の子どもの経過であり、「虫取りをしたから運動能力が伸びた」と因果関係を示すことはできません。

この記事の立ち位置 研究が支えるのは、「幼児期には自発的な遊びの中で多様な動きを経験することが大切」「自然環境は多様な身体活動を生みやすい」というところまでです。この記事では、その中で虫取りが実際にどんな動きを引き出していたかを、家庭の観察記録として示しています。

親がするのは、運動させることではなく、動きを邪魔しないこと

虫を見つけると、親は「ほら、早く」「そこ!」「捕って!」と言いたくなります。でも、声が多いほど子どもは虫より親の指示を追うことになります。

合図は一つに絞る

わが家では、勢いよく追うときに「忍者になるんだよ」と伝えました。「走るな」「静かに」「ゆっくり」と何度も言うより、動きのイメージを一つ渡すほうが分かりやすいと感じました。

成功より途中を見る

捕れなかったとしても、手前で止まれた、虫が跳んだ先を見直せた、しゃがんだまま手を出せたなら、前とは違います。捕獲数だけで見ると、こうした変化を見落とします。

危険な場所では、親が外側に立つ

幼児は虫に集中すると、道路、水辺、段差、周囲の人が見えにくくなります。自由に追わせる前に、親が危険側へ立ち、動ける範囲を作る必要があります。蜂、アブ、毛虫、ムカデなど、触ってよいか判断が必要な虫も、子どもだけに任せません。

ほかの子と比べずに、虫取りの上達を見る5つの視点

運動発達には個人差があります。虫の種類や地形、天候によっても難しさは変わるため、「何歳ならこの虫を捕れる」という基準にはできません。比べるなら、以前の同じ子との違いです。

  1. 視線:虫が動いたあとも追えているか
  2. 速度:近くで止まる、ゆっくり進むができるか
  3. 姿勢:しゃがむ、手を伸ばす、立ち直るが安定してきたか
  4. 足運び:草や段差を避け、立つ位置を変えられるか
  5. 手の操作:虫に合わせて、つかむ位置や力を変えられるか

この5点で見ると、「今日は1匹も捕れなかった」で終わりません。結果の前にある動きの変化が、子どもの成長記録になります。

まとめ|虫取りで見たいのは、走力より「調整する動き」

虫取りは、たしかによく歩き、よく走る遊びです。でも、2歳児を見ていて面白かったのは、体力そのものより、捕まえる直前の動きでした。

この記事の結論 虫取りでは、動く虫と周囲の地形に合わせて、見る、近づく、止まる、姿勢を保つ、手の力を調整する動作が連続します。成長を見るなら「何匹捕れたか」より、動きをどう切り替えるようになったかに注目したいと思います。

2歳6か月でカナブンをつかんだこと、2歳10か月で成虫のショウリョウバッタを捕まえたこと、2歳11か月で蝶への近づき方を教えたこと。虫の種類も状況も違うので、一直線の発達としては比べられません。

それでも記録を重ねると、「動けるか」から「目的に合わせて動きを変えられるか」へ、見る視点が変わりました。虫取りは、運動能力を測るテストではありません。だからこそ、夢中で遊ぶ姿の中に、体の使い方が変わっていく過程を見つけられるのだと思います。

参考資料

読み方について 下記資料は、幼児期の多様な運動や自然環境での遊びを扱ったものです。虫取り単独の効果を証明する資料としてではなく、この記事の観察を位置づけるために参照しました。
  1. 文部科学省「幼児期運動指針」
  2. Fjørtoft I. Landscape as Playscape: The Effects of Natural Environments on Children’s Play and Motor Development. Children, Youth and Environments. 2004;14(2):21-44.
  3. Torkar G, Rejc A. Children’s Play and Physical Activity in Traditional and Forest (Natural) Playgrounds. International Journal of Educational Methodology. 2017;3(1):25-30.

コメント