1・2歳のしつけを、発達から考える
「ダメ」が伝わらないときは?
止める・受け止める・短く伝える3ステップ
何度説明しても、また同じことをする。そんなときは、説明の長さではなく、伝える順番を変えてみます。
商品を棚から出す
ごはんを握って遊ぶ
熱い物へ手を伸ばす
大きな声を出す
お店の商品を触る。ごはんを握って遊ぶ。熱い飲み物に手を伸ばす。
親は理由まで説明しているのに、子どもはまた同じことをする。
「ちゃんと伝えているのに、どうして分かってくれないんだろう」
1・2歳の子どもと過ごしていると、そんな場面が何度もあります。
この記事では、ダニエル・J・シーゲルとティナ・ペイン・ブライソンの『しあわせ育児の脳科学』で紹介される「まずつながり、その後で方向づける」という考え方を、0〜2歳の発達に合わせて読み直します。
この記事での「右脳・左脳」の扱い
本に登場する「右脳に接続してから左脳へ」という表現は、子育てで覚えやすくするための説明モデルとして扱います。実際の脳は、感情は右脳、論理は左脳というように、きれいに二分して働いているわけではありません。
なぜ、説明しても同じことを繰り返すの?
1・2歳は、周囲を触り、動かし、試しながら学ぶ時期です。同時に、自分の衝動を止めたり、気持ちを切り替えたりする力は、まだ発達の途中にあります。
「言われた意味が分かること」と、「その場で行動を止められること」は同じではありません。
- 面白そうな物を見ると、触りたい気持ちが先に出る
- 眠い、空腹、疲れたなどで切り替えにくくなる
- 一度聞いただけでは、別の場面で同じルールを使えない
- 泣いたり怒ったりしている最中は、長い説明を受け取りにくい
そのため、「前にも説明したのに」と感じる場面でも、わざと親を困らせているとは限りません。分かっていても止められない、別の場面ではまだ使えない、ということがあります。
同じ行動を繰り返す=親の説明を無視している、とは限りません。
ルールを理解し、それを思い出し、衝動を止め、別の行動へ切り替えるまでには、いくつもの力が必要です。
基本は3ステップ|止める・受け止める・短く伝える
② 気持ちを受け止める
③ 次の行動を伝える
1.まず、行動を止めて安全を守る
危険なことや、ほかの人・物を傷つける行動は、説明より先に止めます。
- 熱いコップから手を離す
- 道路へ出ないように抱き上げる
- たたこうとする手をやさしく止める
- 商品を床へ置く前に親が受け取る
必要なのは、大声で怖がらせることではなく、落ち着いた声と大人の行動で境界を示すことです。
2.気持ちや目的を短く受け止める
行動を止めた後で、子どもがしようとしていたことを短い言葉にします。
「触りたかったね」
「まだ遊びたかったね」
「自分で持ちたかったんだね」
「嫌だったね」
気持ちは受け止める。行動には境界をつくる。この二つは同時にできます。
3.ルールと代わりの行動を短く伝える
してほしくないことだけでなく、次に何をすればよいかを示します。
- 「商品は棚に置くよ。これをカゴに入れてくれる?」
- 「ごはんはお皿の上。食べないなら、いったんおしまいにしよう」
- 「コップは熱いよ。こっちの冷たいコップを持とう」
- 「たたかないよ。嫌なときは『やめて』って言おう」
泣いている最中は、一文か二文で十分です。落ち着いた後、理解できる範囲で理由を補います。
共感=すぐ泣き止ませることではない
共感しても、子どもが泣き続けることはあります。それでも、安全を守り、気持ちと行動を分けて伝えられたなら、対応が失敗だったとは限りません。
境界を示せた
次の行動を伝えた
危険な場面では、共感が先でなくて大丈夫です。
道路、熱い物、高い所などでは、「止まって」「熱いよ」と短く伝え、まず手を止める、抱き上げる、物を遠ざけるなどして安全を確保します。
場面別|実際にはどう声をかける?
-
🛒 商品を別の棚へ動かそうとする
止める 商品を親が受け取る。
受け止める 「これ、持ってみたかったね」
次を伝える 「商品は元の場所に置くよ。こっちをカゴに入れてくれる?」
「ほかのお客さんが困る」と説明すること自体は悪くありません。ただ、興奮している1・2歳には長すぎることがあります。まず行動を助け、理由は短くします。
-
🍚 ごはんを握って遊ぶ
止める お皿を少し離す。必要なら手を拭く。
受け止める 「ぎゅっとしたかったね」
次を伝える 「ごはんは食べるもの。もう食べないなら、おしまいにしよう」
食べ物を触ることは、感触を知る経験でもあります。一方で、「少し触るのはよい」「投げたら終了」など、家庭の基準を具体的にして構いません。
-
☕ 熱い飲み物に触ろうとする
先に止める 手を止め、コップを届かない位置へ移す。
短く伝える 「止まって。熱いよ」
代わりを示す 「気になったね。こっちのコップなら持てるよ」
悲しそうな顔をして怖さを伝える必要はありません。大人が落ち着いて止め、具体的な言葉と環境調整で守ることが優先です。
-
🚌 公共の場で大きな声を出す
受け止める 「お話ししたかったね」
短く伝える 「ここでは小さい声にしよう」
行動で助ける 親が小さい声を見せる。外へ移動する。静かに遊べる物を渡す。
滞在時間や座る場所、持ち物を調整することも、子どもができるようになるための支えです。
「ダメ」と言ってはいけないわけではない
「ダメ」「やめて」という言葉を一度使っただけで、子どもの自己肯定感が下がるとは言えません。
大切なのは、言葉を全面的に禁止することではなく、何が危険なのか、何をしてほしいのかが分かる形にすることです。
| 言葉だけで止める | 次の行動まで具体的にする |
|---|---|
| 「ダメ!」 | 「止まって。車が来るよ」 |
| 「触らない!」 | 「見るだけにしよう」 |
| 「走らない!」 | 「ここは歩こう」 |
緊急時には、短く強い「止まって」「ダメ」が必要なこともあります。安全を守る言葉まで避ける必要はありません。
年齢によって、伝え方は変わる
0歳|環境と大人の介助が中心
危険な物を届かない場所へ移し、大人が行動を助けます。言葉で理解させることを目標にしません。
1歳|言葉と動作をセットにする
「おしまい」と言いながら片づけるなど、短い言葉、表情、ジェスチャー、大人の行動を組み合わせます。
2歳|短い理由と二択も使う
「熱いから触らないよ」「歩く? 抱っこにする?」など、短い理由や、親が受け入れられる二択を使います。
年齢はあくまで目安
同じ2歳でも、その日の疲れや場所、言葉の発達によって、受け取れる説明の長さは変わります。
うまくいかなかったように見える日もある
気持ちを受け止めても、子どもが泣き止まないことはあります。代わりの行動を示しても、また同じことをすることもあります。
それでも、対応が失敗だったとは限りません。
- 危険な行動を止められた
- 気持ちと行動を分けて伝えられた
- 怖がらせずに境界を示せた
- 次にできる行動を見せられた
乳幼児の学びは、一度の説明で完成するものではありません。同じ場面で、同じ短い言葉と行動を繰り返すうちに、少しずつ結びついていきます。
親が限界のときは、きれいに対応できなくてもいい
いつでも穏やかに共感して、適切な言葉を選ぶのは難しいことです。
強く言いすぎたと感じたら、後から伝え直すこともできます。
「さっきは大きな声になってごめんね。危ないから止めたかったんだ」
その場で完璧にできることより、親子で関係を修復できることの方が大切です。
まとめ|脳の左右より、「今できる伝え方」を考える
『しあわせ育児の脳科学』が伝える「まずつながり、その後で方向づける」という考え方は、子どもを理屈だけで動かそうとしないための、分かりやすい視点です。
ただし、実際の子育てでは「右脳にアクセスする」「左脳へ接続する」と考えるより、次の3つに置き換えた方が使いやすいと思います。
- 必要な行動を止め、安全を守る
- 子どもの気持ちや目的を短く受け止める
- ルールと代わりの行動を、短く具体的に伝える
子どもがすぐ従うことだけを目標にせず、何度も支えながら、自分で切り替える力が育つのを待つ。乳幼児期の「しつけ」は、そのための長い練習なのだと思います。
参考文献・参考資料
- ダニエル・J・シーゲル、ティナ・ペイン・ブライソン著、森内薫訳『しあわせ育児の脳科学』早川書房、2012年(原題:The Whole-Brain Child)
- American Academy of Pediatrics, “What’s the Best Way to Discipline My Child?”
- ZERO TO THREE, “Limits for Little Ones: Setting Boundaries with Toddlers”
- ZERO TO THREE, “Developing Self-Control From 12–24 Months”
- CDC, “Positive Parenting Tips: Toddlers (1–2 years old)”
- Center on the Developing Child at Harvard University, “Serve and Return”
- American Psychological Association, “No such thing as ‘right-brained’ or ‘left-brained’”
※本記事は一般的な発達と関わり方を扱うもので、個別の発達評価や医療的助言ではありません。行動の強さや頻度、発達について心配がある場合は、小児科、自治体の保健師、発達相談窓口などに相談してください。



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